新藤兼人監督の「一枚のハガキ」を観た。一言で言えば新藤監督の遺言として受け止めた。我が父母も監督と同時代を生きた人間である。生きていれば、父は生まれが新藤監督とおなじ歳である。監督が経験してきた戦争は、父母も経験してきたことがらだ。だが、父母の場合と映画では異なる。映像は、籤運によって命が翻弄される。父の場合は、徴用され、横浜から南方の戦地に向かう予定だった。(その船は途中で戦地につく前に撃沈したと言う。)その時、父は幸運にも気管支炎を患って家に帰されたのだ。母はそれを喜んで、母方の叔父に頼み込んで、後方支援を担っていた鉄道省に入ったのである。これも運ということだろうか。そんなことを聞かされていた私にとって戦争とは何かを改めて反芻する機会になった。映像は、俳優人の個性もあってか、かなりデホルメされてオーバーアクションのシーンもあったが、ラストシーンは、麦秋の中、大竹と豊川がこれから生きていかなければならない覚悟を映し出していたが、父母もそうした思いをもって、子どもたちを育ててきたのだろうなと感じた。それは、とりもなおさず父母の私への遺言でもあろうか。私も古希を迎えた。子どもたちも独立、娘はこの秋出産の予定だ。私の子どもたちや孫への遺言は?そろそろ終い支度を考えるこの頃でもある。